デュピクセントは、子供と大人のアトピー性皮膚炎の病態形成に深く関係する
TYPE2炎症を抑制するヒトIL-4/13受容体抗体製剤です。
🌈 新時代の幕開け!
デュピクセントによるアトピー性皮膚炎の治療戦略
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は遺伝的因子とダニや花粉等の環境因子が相まって慢性に経過する難治性炎症性皮膚疾患です。つまり長年に渡って増悪・寛解を繰り返す湿疹で、多くはアトピー素因を持っているのです。
アトピー素因:
①自分または家族にアトピーを含むアレルギー歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)がある。
②体内にアレルギーに反応するIgE抗体が過剰に産生されやすい体質。
私たちはアトピー性皮膚炎の長期寛解を目標にしています。
🌸これらをType2炎症を考慮することで、複雑なアトピー性皮膚炎の臨床的症状の理解 や疾患コントロールの枠組みが見えてきます。
(Type 2炎症については後述します)
アトピー性皮膚炎の原因は?
完全に究明されておらず、未だ根本原因はわかりません。
アトピー性皮膚炎は複雑な多因子が絡み合った複雑な病態生理を有し、バリア機能障害と免疫調節の異常の両方を特徴とします。
これらを説明するのにType 2炎症という概念が現在主流になっています。
Type2炎症とは皮膚バリア機能障害と環境・遺伝的要因の複雑な相互作用からなっています。
当院の診療内容
重症度に合わせて、免疫抑制剤(シクロスポリン)の内服、紫外線療法、アトピー性皮膚炎新規治療薬の生物製剤イブグリース、デュピクセント®、オルミエント®、リンヴォック®、サイバインコ®、ミチーガ®による治療も行っております。
(経口ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤)※当院は導入可能な承認施設です。
イッチスクラッチサイクルと呼ばれる悪循環によって悪化。
かゆみが強い→爪でかく→皮膚に傷がつく→炎症が起きる→炎症の悪化
→かゆみの増強←爪でかく
このように果てしなくこのサイクルが回るのです。
このサイクルのメインとなる炎症がType2炎症なのです。
Type2炎症の主要なサイトカイン(蛋白)であるIL-4と1L-13は、皮膚バリア形成において重要な役割を担う蛋白の発現を抑制することが報告されています。
つまりType2炎症 によりIL-4と1L-13がたくさん産生されているアトピー性皮膚炎では、皮膚バリア機能が障害されてしまうということです。
皮膚バリア機能障害とは
皮膚バリアにおけるセラミドの役割
アトピー性皮膚炎では、皮膚表面の角層のラメラ構造が乱れ、抗原(ダニ等)や細菌、化学物質等が侵入して炎症が起こります。また水分も保持できないため、角層の水分も減少し乾燥肌になってしまいます。
これらの皮膚バリア機能障害にType2炎症の主要なサイトカインであるIL-4と1L-13が深く関与しています。
💕デュピクセントによって、Type2炎症の主要なサイトカインであるIL-4と1L-13の産生が抑えられ、その結果健常人皮膚により近い角層バリア機能を回復したことを示唆するデータが出ています。
🍏また遺伝的側面から見ると、アトピー性皮膚炎患者の3割の方に、フィラグリン遺伝子 の変異が認められます。
フィラグリンは皮膚のバリア機能に必須の蛋白で、その異常の結果、天然保湿因子の減少即ち角層の水分量の低下に繋がります。これらにもIL-4およびIL-13が関与しています。
🌷まとめ:
皮膚バリア機能異常には、遺伝因子・環境因子に加えて、そう/搔破、Type2サイトカイン(IL-4と1L-13)の作用が相互に関連する。アトピー性皮膚炎の治療戦略においてはType2サイトカインを抑制することで皮膚バリア機能の維持・回復が期待できる。
Type 2炎症とは?
細胞性免疫反応にはType 1、Type2、Type3の3つのタイプがあることが知られており、それぞれの免疫応答は、特異的な一次免疫細胞とその関連サイトカインが協調し、特異的防御機構を備えています。つまり体を守ってくれているのです。
問題は、これらの免疫調節機構に異常が起こると組織に炎症が起きることです。⚠️
アトピー性皮膚炎をType2炎症性疾患として考えると、通常は防御的に働くType2免疫調節に異常が生じた結果、起こることがわかります。
(なおType2免疫応答は、アトピー性皮膚炎のほか、喘息や鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の発症にも関与します。)
🌸アトピー性皮膚炎では、IL-4およびIL-13が主要なType2炎症のメディエーターであ り、皮膚バリア機能障害に影響を及ぼす。🌸
🌸アトビー性皮膚炎では、Type2炎症は常に全身に存在し、非病変性の皮膚や正常に見える皮膚にも存在する。🌸
IL-4/L-13のシグナル伝達の増加によりType2炎症が促進されますし、そのType2細胞は1-4と1-13の産生を充進します。つまりグルグル悪循環を繰り返しているわけです。
つまりIL-4とIL-13のシグナル伝達と産生の回路によりType2炎症は遷延化し、バリア機能障害、皮膚病変、かゆみを引き起こし、さらに皮膚感染症を起こしやすくします。
🌷 Type2炎症は、アトピー性皮膚炎の複雑な病態生理の中心にあります。🌷
🍒まとめ:
アトピー性皮膚炎をコントロールするためには、遺伝的因子、潜在的トリガーとしての外部抗原の役割、イッチ・スクラッチサイクルの病態生理、発症と症状コントロールにおける皮膚バリア保護の役割などについても考慮する必要があるのです。
アトピー性皮膚炎の痒みについて
IL-4とIL-13はアトピー性皮膚炎の慢性かゆみ”に関与している事が知られています。
IL-4は末梢神経を介して痒みを生じさせます。またIL-4は、IL-13やヒスタミンなど他の痒みを起こさせる因子に対する神経の応答閾値を低下させ、痒みを増強させます。
もちろんType2炎症自体が痒みを起こします。
デュピクセントとは
IL-4およびIL-13は、アトピー性皮膚炎の病態生理におい重要かつ中心的なType2 サイトカインである事は前に述べました。
🌸デュピクセントはサイトカイン(蛋白)のうちIL-4とIL-13をピンポイントに抑えることで、アトピー性皮膚炎の3要素のすべてに対する効果が期待できる注射薬です。
また、Type 2細胞というリンパ球に分化する過程を抑制することで、炎症のサイクルを止めることができます。🌸
繰り返しになりますが、子供でも、大人でもアトピー性皮膚炎において主体となるのは、Th2細胞(Type2細胞)と呼ばれるリンパ球の活性化です。そのTh2リンパ球から分泌されるIL-4、IL-13、IL-5、IL-31などのサイトカインが3要素(かゆみ、皮膚のバリア破壊そして炎症)を引き起こし、その結果アトピー性皮膚炎が発症すると考えられています。
デュピクセントの作用点
デュピクセントはIL-4受容体αサブユニットに特異的に結合する遺伝子組み換えヒトモノクローナル抗体です。この受容体は上図のようにI型とⅡ型があり、Type2サイトカインである IL-4とIL-13のシグナル伝達を阻害します。
細胞の中でこれらの蛋白を作れないようにブロックし、炎症を抑えるのです。
因みに別の注射薬であるイブグリースは受容体でなくIL13に直接結合します。
長期寛解維持を目指したアトピー性皮膚炎において考慮するポイント
デュピクセントは、皮膚バリア機能、Type2炎症、そう痒の3つに対して、エビデンスを有する薬剤です。
デュピクセントの効果
世界中で最も使用されている中〜重症のアトピー性皮膚炎の注射薬です。
🍊16週時のEASI-50/75/90の達成率
このグラフはアトピー性皮膚炎の皮膚症状が、デュピクセントの注射によりどれくらい治っているかを示しています。EASI75を見ると、皮膚炎の75%改善率が約69%もあったという意味です。(16週の時点)
🍊EASIスコア変化率(16週時、52週時)
デュピクセントの注射によりEASIスコアつまり皮膚炎の程度が優位に改善しています。
🍊そう痒NRSスコア変化率
このグラフはデュピクセントの注射により、どれくらい痒みが取れるかをみたものです。
16週時で約56、半分に減っています。(治療開始の痒みを100とする)
副作用
アトピー性皮膚炎患者を対象とした国際共同試験3試験で本剤300mgを2週に1回投与された403例(日本人62例を含む)において、副作用は123例(30.5%)に発現し、主な副作用※は、注射部位反応29例(7.2%)、頭痛12例(3.0%)、アレルギー性結膜炎7例(1.7%)でした(承認時)。
※主な副作用:プラセボ群の発現率よりも1%以上高い頻度で認められた副作用のうち、発現頻度が高かった上位3つを主な副作用として記した。
発売以来5年以上経過しています。結膜炎の発生頻度が高いので注意すべきですが、効果、安全性が高いことが報告されています。
デュピクセント治療の対象となる方
ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの抗炎症外用薬による適切な治療を6ヶ月間施行しても、十分な効果が得られず、広範囲に皮膚炎が認められる患者さんが対象になります。原則として、病変部位の状態に応じて抗炎症外用薬を併用します。本剤はアトピー性皮膚炎の治療に精通した医師のもとで使われることを前提としています。
⭐️軽症の方や注射だけをご希望される方は適応がありません。
🍎激しいかゆみで毎日夜起きるが、発疹はそれほどひどくない状態のアトピ-には、ミチーガという別の注射があります。
デュピクセントの投与に注意が必要な方
喘息を合併する患者さんに本剤を使用した場合、喘息症状も改善する可能性があります。そのため、本剤投与中止後に喘息に対する適切な治療を怠った場合、喘息症状が急激に悪化する可能性があります。喘息を合併している患者さんは、当該科の先生の治療を継続して受けて下さい。
妊婦または妊娠している性のある方は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用できます。また、本剤を使用中の方は授乳を避けて下さい。
本剤投与中に、アレルギー性結膜炎や眼瞼炎を生じることがあります。抗アレルギー点眼薬などで改善することが多いです。(日本皮膚科学会 QandAより)
→初診の方
当院をはじめて受診され、デュピクセント®治療を新規に始めたい方
🍄注射は予約制で、当日はできません。
診察させていただき「中等症以上」であること、直近の6ヶ月から2年の治療内容が確認できること、が条件となります。
従って、これまでのお薬手帳をご持参ください。またアレルギー検査の結果もあれば、合わせてご持参ください。中等症~重症の方にデュピクセント®治療をご提案します。
⚠️お薬手帳がなく、最近の6ヶ月から2年の治療内容がわからない場合は、デュピクセント®治療は行いません。
→転医の方
他院でデュピクセント®治療を既に行っていて、当院でも継続したい方
デュピクセント®治療を開始した時点でのEASIスコア等のアレルギー情報を、これまで通院していた皮膚科で書いてもらい当院にご持参ください。報酬明細書に記載する必要があります。
デュピクセントの投与スケジュール
デュピクセントは1本の注射に300mgが含まれる注射液です。
投与開始日のみ2本を皮下注射します。その後は2週間に1回、1本を皮下注射します。
このため、2週間に1度の受診が必要です。
慣れると自己注射が可能です。そうなれば、3ヶ月に1度の受診も可能になります。
注射部位は、両上腕(二の腕)、腹部、両大腿(ふともも)です。
※使った注射器は次回、廃棄パックに入れて持参してください。
デュピクセントの自己注射について
自己注射が可能です。
処方量は6バイアル(およそ3ヶ月分)が最大です。
処方箋を発行し、調剤薬局でデュピクセントを受け取って頂きます。
メリットは①通院が3ヶ月毎で良い事。
②高額療養費制度が使える事。
最低2回の指導を受けて頂く必要があります。
もちろんこれまで通り2週間毎に院内で注射することも可能です。
⚠️注射の間隔を勝手に延ばしたり、勝手に中止すると、抗体ができデュピクセントの効果 がなくなることが知られています。⚠️
デュピクセントの治療費
【医療費助成制度】
・高額医療制度
世帯収入や年齢により、1ヶ月に医療機関で支払う自己負担額を一定の額までに抑えることができる制度です。
1ヶ月の治療費が上限を超えると、超過分を国が負担する仕組みです。
・高額療養費付加給付
国が定めるよりも手厚い医療費助成を受けられ制度が付加給付です。
詳しくはご加入の保険組合までお問い合わせください。
その他にも
🍏学生などへの医療費補助制度
🍏子供への医療費補助制度
🍏一人親家庭への医療費補助制度等があります。
🌸1年に4回(1回、3ヶ月分)処方されると、4回目の自己負担が半額になります。
医療制度へのご質問ご相談は下記コールセンターへごお問い合わせ可能です。
詳細な自己負担額がわかります。
デュピクセントとJAK 阻害薬(リンヴォック)の使い分けは?
注射製剤が受け入れられない方は、内服薬のJAK 阻害薬を選択する.
内服のJAK 阻害薬(ウパダシチニブ30ミリ)は痒みや皮膚炎への効果発現に即効性があり効果も高い ので、デュピルマブも十分に効果は高いが即効性を期待する場合に選択する。
合併症があるかどうかで治療選択肢が異なる。デュピクセントは、喘息にも有効であるため、喘息の既往や合併のある症例ではデュピクセントを選択する。
また,悪性腫瘍、心血管疾患,血栓症、憩室炎などの合併症の多いハイリスクな患者や帯状疱疹のリスクの高い高齢者,ヘルペス感染症やカポジ水痘様発疹症、ニキビなどの皮膚感染症を繰り返すケースには、デュピクセントを選択した方が安全性は高い。
デュピクセントについてよくある質問 Qand A
①いつまで注射を打つのですか?
「普通の皮膚、普通の生活」を望めるようになって、良い状態が持続しているのであれ ば、考え方にもよりますが、少なくとも2、3年は継続して構わないと思います。
罹病期間の長い方は特に中止するという選択肢は考えなくていいでしょう。
②顔の赤みに効きにくい方がいるようですが?
顔以外は極めて良い状態なのに、顔の赤みが消えない方がいます。
長年の皮膚炎が持続した結果、顔には皮膚の萎縮や毛細血管の拡張が見られます。
それに加えて嗜癖的掻爬もやめられないのです。
またデュピクセントにより顔の赤みが誘発されたケースもあるのです。
慎重に見極めて、JAK阻害剤の内服に変更して改善した方もいます。
③効果がない方が2割ありますが?
残念ながら100%効果がある治療法はありませんが、内服のJAK阻害剤やイブグリースというIL13をターゲットにした注射薬に変更して改善したケースがよく知られています。
諦めないでください。
④デュピクセントに対する抗体ができる可能性は?
投与間隔を8週まで延長すると、デュピクセントに対する抗体ができるつまり効果がなくなる事が報告されています。
ですから勝手に注射間隔を延ばすのは避けたほうがよいのです。